カイジ 人生逆転ゲーム

実写映画の俳優陣を見て、原作漫画のような頭脳戦・心理戦を展開できるのだろうかと心配していたが、悪くない意味でそこは裏切られた。TVCM内の「究極の頭脳ゲーム」というコピーは真っ赤なウソだ。

自堕落で最底辺の生活を送りながら、そんな自分を直視できないダメ人間・伊藤カイジ。突然、彼のもとに身に覚えのない借金取りが現れ、何となしに押してしまった保証人の判を後悔することに。バイト生活のカイジは、利息で膨れ上がった借金を返せるわけもなく、一夜でそれを帳消しにできるという客船エスポーワール号に乗船する。

ここまでの展開は、原作とほぼ同じ。エスポワール号では「限定ジャンケン」、その後も地下帝国に鉄骨渡りと、原作ファンにも喜んでもらえる展開に。地下帝国では、班長役が松尾スズキというのはアタリだなあと思わせた直後、チラっとだが原作そっくりの三好君が出てくる。なんという狙い撃ち。

気になる所と言えば、伊藤カイジを演じる藤原竜也の演技だ。彼は暫く舞台をやった後、テレビでも映画でも全てが舞台演技になってしまった。舞台演技で声が出ていないのは致命的なのだけれど、テレビや映画でやっている分には問題無いのかな。出演作品は漫画的なものに絞っているし、それなら大げさな演技もアリか。

原作を読んでいる僕は、どうしても深い読み合いや、窮地で捻り出される妙策を期待してしまう。だが本作の脚本では、それらを排除する傾向がある。これは多くの人に気軽に観てもらう作品としては正解だった。下手に重苦しい頭脳戦・心理戦を描こうとすれば、途中で疲れてしまう観客も出てくるだろう。そのうえ、時間的にエスポワール号の「限定ジャンケン」のみという中途半端な話になりかねない。

Eカードまで話を持ってくるための駆け足な展開、かと思えば引っ張り気味の鉄骨渡りと、原作ファンとしてはイマイチ感が否めない。とは言え、香川照之が演じる利根川は原作やアニメと違った面白さがあったし、これまでの“カイジ”とは別腹として楽しむくらいで丁度良い作品だ。