ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

確かに、旧エヴァとは別物に違いない。旧エヴァは謎めいた物語やキャラの内面を強く描き、視聴者に歩み寄ってもらう必要のある作品だった。だが、今度のヱヴァはとても分かりやすく、庵野秀明総監督の思い描くエヴァ(ヱヴァ)は、十数年の間でようやく輪郭がはっきりとしてきた。

前哨戦となった『序』を観て、「ヤシマ作戦こそ旧作を凌ぐ緊張感に興奮したが、正直物足りなかった」という方も心配はいらない。『序』が頑なに旧エヴァの回想の域で展開されたことは、旧エヴァ的なベクトルからの離脱を明確に示す前振りとして最も有効だった。

もう中盤辺りからは、涙がぼろっぼろ出てきて困った。あの内向きな旧エヴァが、もし、最大限にファンを楽しませようとする作品であったとしたら。それが目の前にあって、嬉しくて仕方が無かった。もう、あの面倒な旧エヴァに捕らわれなくて良いんだと思えた。

また、今作ではセカイ系の始祖から脱却する試みも見て取れた。第三新東京市に住む人々、交通などのインフラ、シンジたちが口にする食べ物。そういった社会の息遣いや人間らしい部分が具体的に描かれているのは、方向性がはっきりしてきたことで生まれた余裕からだろう。

もう一度、今度は泣かないように観たい。